シニアダイバーと安全対策 〜45歳以上から意識するリスク管理〜

投稿者:加藤 大典

はじめに
近年、日本国内外で中高年ダイバーの事故が増加しています。沖縄や伊豆半島のデータでも40代後半から事故が目立ち始め、DANの国際報告では致命的事故の67%が50歳以上を占めています【DAN, 2018】。
SDIは「年齢そのもの」を制限とは捉えず、健康状態・適性評価・安全な計画を重視します。今回は、年齢に応じた2つのカテゴリーを提示し、リスク管理の目安を示します。

年齢区分と用語
45歳以上:エイジングダイバー(Aging Divers)
 身体機能や循環器系の変化が始まり、リスク確認を強化すべき層。
 Diver Medicalでは45歳以上かつ特定リスク(喫煙・高血圧・家族歴など)がある場合に医師評価を必須としています。
60歳以上:シニアダイバー(Senior Divers)
 日本社会では65歳以上を高齢者と定義(内閣府「高齢社会白書」)。
 国際的には60歳以上が「older persons」とされることが多く、ダイビング界では“Senior Divers”という呼称が一般的です。
 DANは65歳を超えたら毎年の健康チェックを推奨しています。

エイジングダイバー(45歳以上)へのアドバイス
健康チェック:5年ごとに医師による健康評価を受けることを推奨。
潜水プラン:深度は控えめ、潜水時間を短めに、休息を十分に取る。
ライフスタイル:禁煙、適度な運動、生活習慣病対策を意識。
器材の工夫:軽量化やサポート器材で負担を減らす。

シニアダイバー(60歳以上)へのアドバイス
健康チェック:毎年、医師の署名入りのダイバーメディカルの提出を推奨。
計画の保守性:エントリー・エキジットが容易な環境を選び、無理のないスケジュールにする。
安全マージン:エア消費や疲労を考慮し、負荷の高い活動は控える。深度・時間をさらに制限。
仲間との連携:必ずバディやガイドと体調・プランを共有。

プロフェッショナルへのメッセージ
エイジングダイバーには「45歳を超えるとリスク確認が必要」という国際基準を理解し、ガイド計画や教育で反映させる。
高齢ダイバーには「Senior Divers」として尊重しつつ、寄り添いながらリスクを先回りする姿勢を持つ。
コミュニケーションは「無理をしないで」ではなく「安心して楽しめるように、こう工夫しましょう」と前向きに伝える。
SDIの使命は、年齢を重ねても安全に続けられるダイビング環境を提供することにあります。

ダイビングショップが実施すべき安全対策(エイジング/シニアダイバー対応)
1. 書類・健康状態の確認体制
 ダイバーは必ずダイバーメディカル記入
 最新フォームを使い、B欄に該当があれば医師の署名を必須化。
 6か月間有効のデジタル管理(tdisdi.comなど)を活用し、書類の抜け漏れを防止。
 60歳以上は年1回の健康診断結果の提出を推奨
 医学的リスクが増える層として、ダイバーメディカルに加えて健康診断書の提出を慣習化。
2. 当日の健康チェック(現場でできること)
 ブリーフィング時に口頭で「体調に変化がないか」確認し、証人(スタッフ・バディ)の前で記録。
 簡易測定(SPО₂・血圧・体温)を習慣化
 45歳以上はセルフチェックを義務づけ、記録を持参。
 希望者や不安があるゲストにはスタッフがサポート。
 顔色・呼吸・動作の観察を日常業務に組み込み、異常があれば即エスカレーション。
3. ダイビング計画上の配慮
 無理のないプランニング
 深度は控えめ、潜水時間は短め、水面休息は長めに。
 連続ダイブや過度な移動・荷物運搬を避ける。
 エントリー・エキジットの環境選定
 体力負担の少ないポイントを優先。
 波・流れ・階段の有無などを事前に考慮。
4. 教育と説明責任
 健康管理は自己責任であることを明示
 「返金規定」や「ダイビング不可の可能性」を事前説明し、理解を得る。
 プロフェッショナル教育
 インストラクター・スタッフは「医師の代わりに診断はできない」ことを再認識。
 その上で、日常的に観察と声かけを徹底する。
5. 記録とエビデンス管理
 測定データや口頭確認を簡単に記録
 事故時の証拠として残す(事故防止だけでなく、法的リスク低減にもなる)。
 異常が出た場合はダイビング中止
 「安全第一」を優先する文化をショップ内で共有。

まとめ
45歳以上=エイジングダイバー:ダイバーメディカルと当日の簡易測定で健康状態を確認。
60歳以上=シニアダイバー:加えて年1回の健康診断提出を推奨し、保守的な潜水計画を組む。
医師の診断に委ねる部分と、ショップで観察・確認する部分を明確に分けることで、事故予防と責任回避の両立が可能になります。

➡ SDIは、すべての世代のダイバーが安全に海を楽しめる未来をつくります。

<お知らせ>
次回のシリーズでは、シニアダイバーの指導に長年携わってきた SDIインストラクター平木氏 による「シニアダイバー対策」をご紹介します。

シニアダイバーご自身はもちろん、シニア世代を担当されるインストラクターの皆さまにも役立つ内容です。ぜひご覧ください。


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