記事 by Sébastien Wilem
翻訳・編集 青木優子
タイトルの、『テクニカルインストラクターが「基本」に立ち返るべき理由』を読んで、
インストラクターじゃないから関係ないと思いませんでしたか?
ここには全ダイバーに忘れて欲しくない教訓が書かれています。
さてそれは?
テクニカルインストラクターが「基本」に立ち返るべき理由 -大深度からの教訓
目次
・冒険を支える基礎
・基本を再確認する:なぜテクニカルインストラクターは SDI コースを教えなければならないか
・大深度からの教訓 — スイスの湖での出来事
・テクニカルダイビング:基礎を必要とするニッチな分野
・スポーツダイビングとテクニカルダイビングの架け橋
・基礎を通じたメンターシップ
・個人的なストーリー:基本の変革力
・結論:「普通」の中にある壮大な物語
・著者について
冒険を支える基礎
テクニカルダイビングは想像力を掻き立てます。深い湖、知られざる沈船、そして地下洞窟. . . 1メートルごとに新たな挑戦が待ち受けているような場所へ私たちを誘います。
より深く、より長く、より遠くへ。
限界に挑戦する魅力は否定できません。しかし、極限の冒険を追い求めるあまり、時に見落としてしまうことがあります。
それは、基本です。
テクニカルインストラクターとして、私たちは高度な手順、複雑なCCRセットアップ、そして精緻なガス管理に重点を置くことが多いです。しかし、あらゆるディープダイブ、ケイブ探査、トライミックスでの探検を支えているのは、「シンプルながらも重要なスキル」です。
・中性浮力
・安定したトリム(姿勢)
・効率的なフィンキック
・周囲への状況認識(シチュエーションアウェアネス)
・緊急時のドリル
これらは安全で効果的なダイビングの核となるものです。これらがなければ、どれだけ高度なスキルを持つダイバーでも危険にさらされます。
ケイブダイビングでもトライミックスダイビングでも、高度なコースを受講しにきた講習生が資格に自信満々でやってきて、基本的なスキルに欠けていることに気付く場面を私は何度も見てきました。
・トリムがうまく取れない
・水中でのぎこちないホバリング
・推進ドリルを安定してこなせない
こうした瞬間を見るたびに思い出します。基礎に立ち返ることは補習ではなく、必要不可欠なことだと。
基本を再確認する:なぜテクニカルインストラクターは SDI コースを教えなければならないか
高度なコースの場合、私は受講生の資格だけでなく、実践的なスキルも評価します。多くの場合、以下の基本スキルの復習に丸1~2日を費やします。
・浮力コントロール
・トリム
・推進力
・Vドリル(バルブシャットダウンドリル)
・Sドリル(セーフティードリル)
この時間は決して無駄になりません。高度なレッスンがしっかりとした基礎の上に構築され、受講生が安全かつ自信を持って学習を進めることができるようになるのです。
この時間は決して無駄ではなく、受講生が安全かつ自信を持って前に進むことを可能にする 重要な基盤となります。
高度なコースは挑戦的であるべきですが、基本が抜け落ちていては意味がありません。基本をしっかり強化することで、私たちはテクニカルダイバーが手順を反射的に行えるようになることを確実にします。それが緊急時に生死を分ける差を生むのです。
大深度からの教訓 — スイスの湖での出来事
私の指導哲学に深く影響を与えたダイビングは、透明度と深さで知られるスイスの湖、ベアテンベルクで行われました。オープンウォーターから潜行し、光が黒い静寂へと消えていく中で、私は慣れ親しんだ探検の興奮を感じました。
ある水深で、災難が襲ってきました。私のメガロドンCCRの酸素供給装置のファーストステージレギュレーターが大量のガス放出したのです。ダイビング中の穏やかな自信は、一瞬にして制御をめぐる闘いへと変わりました。
私はすぐにブーンシナリオモード に切り替えました(ブーンは基本的に供給ガスの漏れを意味し、「ガスが意図しない場所から漏れ出ること(リーク)」を指す言葉。ブーンの際に対処する手順に移ったということ。更に詳しく知りたい方はこちら)。故障は酸素ループにありました。オン/オフバルブドリルを使って残りの酸素を慎重に排出し、浮上中にソレノイドに届くだけの量を確保しました。80メートルで酸素供給が尽きました。その時、仲間が手動追加バルブ(MAV)を通して酸素を供給し、制御された安全な浮上を確保してくれました。
この緊急事態は、即興や幸運で乗り越えたわけではありません。トレーニングを重ね、
・基礎的な訓練
・酸素分圧(PO₂)を正確にモニタリングすること
・制御された浮上手順
・チームワーク
によって乗り越えました。あの日、私が頼ったのは高度な装備ではなく、基礎でした。そして、これが私がすべてのテクニカルの受講生に教えている教訓です。どんなに複雑なコンフィグ(器材構成)であっても、まずは基本をマスターすることが何よりも大切なのです。
テクニカルダイビング:基礎を必要とするニッチな分野
テクニカルダイビングはダイビング界の中でもニッチな存在です。
認定ダイバーのうち、ディープトライミックスダイビング、CCR探査、オーバーヘッド環境ダイビングに取り組むダイバーはごくわずかです。一方、スポーツダイビング(レクリエーショナルダイビング)は依然として幅広く、世界中で毎年数百万件もの認定資格が発行されています。
この不均衡は、重大な責任を浮き彫りにしています。テクニカルインストラクターは、ダイビングピラミッドを根本から強化するまたとない機会を持っているということです。SDIレベルのコースを指導し、基礎を再確認し、核となるスキルを指導することによって、受講生がテクニカルダイビングへ安全にステップアップできるよう準備を整えます。
十分なトレーニングを受けたスポーツダイバーは、高度なコースの受講に最適です。彼らは浮力、トリム、推進力、そしてシチュエーションアウェアネス(状況認識能力)に長けているため、テクニカルコースでは基礎スキルの復習ではなく、その先のスキルに焦点を当てることができます。これにより、より効率的で安全かつ生産性の高いコースが実現し、受講生、インストラクター、そしてダイビング事業者の双方にとってメリットとなります。
基礎スキルに時間を投資することで、インストラクターはリソースを保護し、コースの質を維持し、自信を持って技術的な課題に取り組めるダイバーの育成に努めることができます。
スポーツダイビングとテクニカルダイビングの架け橋
基礎コースの指導は、スポーツダイバーにテクニカルな考え方を身につけさせるという、またとない機会でもあります。私はよく、ガレージに並べられたリブリーザーやテクニカルギアを受講生たちに見せますが、それは彼らを威圧するためではありません。
彼らを触発するためです。
受講生たちは、基礎をマスターすることで何が可能になるのかを目の当たりにし、テクニカルダイビングは器材や水深だけでなく、スキル、規律、そして準備が重要だということを理解し始めます。
時間の経過とともに、スポーツダイバーの中にはテクニカルダイビングへとステップアップする人もいます。彼らは、学習曲線を加速させ、安全を確保する基礎的な能力を身につけています。基礎を徹底的に教えることで、テクニカルインストラクターは、次世代のテクニカルダイバーを土台から育成し、長年の探求にも役立つ習慣や反射神経を身につけさせます。
基礎を通じたメンターシップ
基礎指導の核となるのはメンターシップです。テクニカルダイビングは、技術だけでなく、心構えも重要です。私は受講生の野心を抑えるのではなく、それを和らげることで指導します。好奇心と規律、熱意と忍耐のバランスを大切にしています。あらゆるエクササイズ、あらゆるドリル、あらゆるプールセッションを通して、極限環境での生存を支える習慣を身につけていきます。
このアプローチを通して、ダイバーは自信、能力、そして知識を身につけます。彼らは探検とは忍耐、準備、そして環境と自分自身への敬意の旅であることを学びます。
個人的なストーリー:基本の変革力
フランスのヴグラン湖(フランス東部ブルゴーニュ=フランシュ=コンテ州ジュラ県アイン川沿いのヴーグランにある水力発電所の貯水池)で、トライミックスの受講生が深い湖に潜っていた時のことを覚えています。
彼の経験、あるいは経験のなさが、基本の大切さを鮮やかに教えてくれました。
アンカーラインに沿って潜っていた時、彼は下にいる別のダイバーから立ち上る泡に突然方向感覚を失いました。周囲のバブルの塊が水の密度の感覚を変え、彼はパニックに陥り、アンカーラインの周りをぐるぐると回りながら、浮上速度が速すぎると思い込んでいました。しかし実際には、彼はゆっくりと潜行していたのです。
私は優しく、しかし毅然とした態度で彼のそばに近寄り、まっすぐに目を見つめました。
「止まれ。考えろ。行動せよ。」
と、あらゆるテクニカルダイビングの指針となる言葉を念押ししました。浮力、トリム、そしてライン上の位置に再び集中し、彼が再びコントロールを取り戻せるよう手助けしたのです。その時、私たちは以下の基本動作を練習しました。
・ゆっくりと意識的に呼吸すること
・トリムを微調整すること
・水中での体と器材への基本的なアウェアネス
数週間後、違いを目撃しました。
今や基礎をしっかり身に付けた同じ受講生が、毎回のダイビングに冷静に集中して臨んでいました。アンカーロープにしっかりとつかまり、浮力を正確にコントロールし、水中を滑らかに動き、バブルや心を乱すものに振り回されることはもうありませんでした。この出来事は表面的には些細な、しかしその裏では記念すべき出来事でした。確かな基礎がなければ、技術的な専門知識は脆いものであることを証明したのです。高度なスキルや洗練された装備も、基本を習得して初めて効果を発揮します。
例えるならば、基礎は錨、熟練した技術はダイバーが安全に探検するための帆なのです。
結論:「普通」の中にある壮大な物語
テクニカルダイビングは、深い洞窟、まだ見ぬ沈船、静かな海底ハイウェイなど、想像力を掻き立てます。
しかし、どんな壮大な旅も、まずは日常の鍛錬から始まります。SDIレベルのコースを指導し、基礎を復習し、シンプルで重要なスキルを通して受講生を育成することは、決して後退ではありません。安全で持続可能、そしてスリリングな探検の基盤となるのです。
インストラクターとして、私たちはテクニカルダイビングの未来と、それを担うダイバーの人格を形作ります。プールや浅瀬のダイビングスポットでの浮力に関するレッスン、推進力に関するドリル、そして忍耐強い指導は、何十年にもわたって心に残り、熟練した、規律正しく、冒険心あふれるコミュニティを育みます。
次回、SDIコースや基礎コースの受講をスキップしようかと迷った時は、次のことを思い出してください。
限界に挑戦し、未知の世界を探求するような、並外れたテクニカルダイビングは、ありふれたスキル、つまり綿密な練習、深い敬意、そして本能的な実行の上に成り立っています。
CCR、トライミックス、複雑な洞窟ラインなど、どんなものも、浮力、トリム、推進力、そして状況認識という確固たる基盤に取って代わることはできません。テクニカルインストラクターとして、基礎を教えることに立ち返ることは後退ではなく、深海での試練にも耐え、力強く、自信に満ちた、有能なダイバーを育成する最も強力な方法です。
著者について
セバスチャン・ウィレムは、TDIインストラクター・トレーナー、メガロドンCCRとリバティCCRのアドバンスド・ミックスガス・リブリーザー・インストラクター、CCRベイルアウト・インストラクター、そしてTDIオーバーヘッドコース全般のテクニカル・インストラクターです。
1997年からダイビングを始め、2005年からリブリーザーの研究に取り組んできたウィレムは、世界中のオープンウォーター、洞窟、沈船などで3,000回以上のダイビング、4,200時間以上のダイビングを記録しています。
元ベルギー連邦警察官および消防士という経歴から、規律、正確性、そしてプレッシャーの下での回復力を身につけ、これらの資質を探求とメンターシップの両方に活かしています。ウィレムは750人以上の生徒を指導し、ヨーロッパで最も深い湖、極限のケイブ、有名な沈船の現場への遠征を率いてきました。技術的な専門知識と、安全なダイビングを可能にする基礎を教えることへの情熱を融合させています。
Instagram→https://www.instagram.com/sebwilem/
新着記事
-
「誰かが守る安全」から“みんなで守れる安全”へ。"2026 SDIJAPAN チームセーフティプロジェクト始動"
2026/12/31
-
【パーティ】2026年4/5(日) ONE DIVE FAMILY PARTY IN TOKYOご参加受付中!(早期先着50名特典は完売)
2026/04/05
-
【名古屋展示会】2026年3/13-14(金土)ダイビングメッセ2026in名古屋開催のお知らせ
2026/03/14
-
テクニカルインストラクターが「基本」に立ち返るべき理由 -大深度からの教訓
2026/03/08
-
ITW(インストラクタートレーナーワークショップ) 2026 開催報告
2026/03/04
-
【エモンズシリーズ 第3弾】なぜエモンズなのか
2026/02/13
コースで絞り込む
キーワードで絞り込む
タグで絞り込む
- #ERDI
- #PFI
- #SDI
- #sdi-sn
- #SDIコースディレクターコース
- #TDI
- #tdi-nx
- #ういてまて
- #インストラクターアップデート
- #エイジングダイバー
- #エモンズシリーズ
- #オンライン
- #カバーンダイビング
- #ケーブダイビング
- #サイドマウント
- #シニアダイバー
- #スノーケラー
- #セノーテ
- #セミナー
- #ソロダイバーコース
- #ダイビングの始め方
- #チューク
- #ディープダイビング
- #トレジャーズ
- #ファーストレスポンストレーニングインターナショナル
- #ブルーオーシャンフェス
- #プラヤデルカルメン
- #ボランティアダイバーズ
- #ミクロネシア
- #レックダイビング
- #安全対策
- #展示会
- #潜水事故
- #着衣泳
- #稲積水中鍾乳洞プロジェクト
