【新連載企画】減圧神話:パート1

投稿者:SDI TDI ERDI JAPAN


減圧神話:パート1

By: マーク・パウエル

2012年、アメリカ政府は「人魚が存在するという証拠はない」という声明を発表しました。これはジョークではありません。この発表は多くのニュースで取り上げられ、今でもインターネットで確認できます。

これは大げさに報道しているわけでも、フェイクニュースでもなく、実際にアメリカ海洋大気庁(NOAA)がこの声明を発表しました。NOAAのウェブサイトでは、その時の発表内容を見ることができます。

この発表は、「人魚は本当にいるのか?」という質問をNOAAが定期的に受けていたことから始まっています。人々がこのような質問をするようになったのは、ビッグフットやネス湖の怪物、そして人魚のような生き物が実在すると主張するテレビ番組が増えたからなのかもしれません。発表によると、人魚の話は何千年も前からあるものの、あくまで神話上の生き物であり、人魚が実在するという証拠は見つかっていないということです。では、これらの神話はどこから来たのでしょうか?一説には、船乗りや水辺に住んでいた人々がジュゴンやマナティーを見て、人魚だと勘違いしたというものがあります。いずれにせよ、人魚の神話が多くの人々に信じられてきたのは事実です。

他にも有名な神話が多くあります。「都市伝説」という言葉は、このような比較的新しい神話を指すときに使われます。フーバーダムのコンクリートの中に死体が埋まっているというのは真実ではありませんし、結婚式のライスシャワーを鳥が食べても爆発しません。また、人間は脳の10%以上を使いますし、髪を剃っても太くなるわけではありません。

歴史を見ても、そして現在も、神話がどれだけ普及しているかというのを考えると、減圧理論に関する神話が広まっているのは驚くべきことではありません。人魚が存在しようが、フーバーダムに建設作業員の遺体が埋まっていようが、現実の世界ではどうでもよいことかもしれませんが、減圧理論にまつわる神話は減圧症のリスクを高めるなど、現実的な問題を引き起こす可能性があります。この記事は、そのような迷信を明らかにし、減圧の安全性を向上させることを目指しています。

「減圧潜水はしないから、この記事にはあまり興味がない」と思うかもしれませんが、もしそうならば、あなたは「無減圧潜水の神話」を信じてしまっているかもしれません。実は、無減圧潜水というものは存在しません。

神話 - 無減圧潜水では減圧がゼロになる

潜降するときは圧縮され、浮上するときは減圧されます。たしかに、コントロールされた潜降で減圧できるダイビングもありますが、減圧であることに変わりはありません。このようなダイビングをノーストップダイビングと呼ぶことはできますが、無減圧潜水と呼ぶのは適切ではありません。

これは些細な違いに見えますが、一見無害に思える神話でも実はそうでないことがあります。もしあなたが減圧潜水と無減圧潜水には根本的な違いがあると信じているのなら、新たな神話が生まれます。それは、「減圧潜水は無減圧潜水よりもかなり危険である」、もっと言えば、「減圧潜水は危険で、無減圧潜水は安全である」というものです。

神話 - 減圧潜水は危険で、無減圧潜水は安全である

安全とはリスクがない状態のことを言いますが、無減圧潜水にもリスクはあります。「安全な無減圧潜水」と「危険な減圧潜水」は単純に白黒で分けられる問題ではなく、無減圧潜水でもある程度のリスクがあり、減圧が必要な潜水ほどリスクが少しずつ上がっていくという、灰色の濃淡のように段階的であるというのが現実です。この人為的な区分が、ノーストップリミットをわずかに超えただけでリスクが急激に増大するという誤解を生み、その結果、ノーストップリミットに近づいたり、誤ってそのリミットを超えたりしたときにパニックに陥り、軽率な判断を下してしまうことがあります。このような状況でパニックに陥ったダイバーが急浮上し、減圧症の症状が出てしまった事例が数多くあります。この神話が減圧症のリスクに対する過度の警戒を生み出し、その恐怖がパニックを引き起こしたことで、恐れていた事態を招いてしまったのです。これは、こうした神話が持っている非常に現実的な影響です。一方、ノーストップリミットの終わりは急なものではなく、ただの過程の一部だと理解しているダイバーは、浮力を維持しながらコントロールされた浮上を行う可能性が高いく、落ち着いていれば、ダイブコンピュータが示す減圧停止時間が安全停止時間よりも長くないことに気づくでしょう。

神話 - ノーストップダイビングでは減圧症にかかることはない

「減圧潜水は危険で、無減圧潜水は安全である」という神話に関連してあるのが、「ノーストップダイビングでは減圧症にかかることはない」という神話です。しかし実際には、ノーストップダイビングでも減圧症にかかるリスクは常にあります。深度や潜水時間だけでなく、運動や体温、水分補給、医学的な問題など、さまざまな生理的要因がノーストップダイビングのリスクを高めます。ノーストップダイビングとは、減圧停止を行わずに適切な浮上速度で水面に到達できるダイビングのことです。ここで重要なのは、「適切な浮上速度で」ということです。ノーストップダイビングの場合、適切な浮上は十分な減圧になるというのを覚えておくべきです。もしダイバーが急浮上した場合、十分な減圧を行ったとは言えず、減圧症のリスクが高まります。

神話 - テーブルに従えば減圧症にかかることはない

もうひとつの神話は、「テーブルに従えば減圧症にかかることはない」というものです。この点については既に触れていますが、ノーストップリミット内にとどまったとしても、減圧症のリスクはあります。段階式減圧停止潜水を計画し、計画した減圧停止をすべて完了したとしても、減圧症のリスクは残ります。あなたが経験豊富なダイバーであれば、これは常識として大きくうなずいていることでしょう。

これが迷信であることは皆さんもお分かりかと思います。なぜ私がこれを再度指摘する必要があるのかと疑問に思われるかもしれませんが、それは、頭では迷信であると理解していても、「ストップミスはしていない」「私のコンピュータにはストップミスはない」「私のコンピュータはロックアウトされていない」などというダイバーの言葉を何度も耳にしてきたからです。

神話 - コンピュータに従っていれば減圧症にかかることはない

ダイブコンピュータは、ダイブテーブルを電子的に表示したものに過ぎません。つまり、コンピュータに従っていれば減圧症にかかることはないと考えるのは、テーブルに従っていれば減圧症にかかることはないと考えるのと変わらないのです。しかし、不思議なことに、多くのダイバーはダイブコンピュータに特別な信頼を寄せています。コンピュータはあなたの行ったダイブプロフィールについては把握していますが、健康状態や体力、水分補給や年齢、その他リスク要因を考慮することはできません。

減圧は、まるで黒魔術のように感じられるかもしれませんし、そこから多くの神話が生まれる時期でもあります。このような神話を解き明かし、ダイビング中に何が起こっているのかをより明確に理解するためにも、減圧理論の背後にある原理を理解することに時間を費やす価値があります。

次回は、ダイビングの神話についてご紹介します!


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