沖縄 洞窟ダイビング事故から学ぶ ― ルールを守ることの大切さ ×インタビュー大原拓氏

投稿者:加藤 大典

沖縄の水深の深いダイブサイトで発生した潜水事故は、安全潜水を啓蒙しているSDI TDIにとって大きな教訓となる出来事でした。今回の事故は、現地でも一般ダイバーが潜水禁止されている深度の深い洞窟で起こりました。事故を起こしたのは外国籍の方たちで、言語の問題でローカルルールを理解していなかった可能性もありますが、わかっていてルールを守っていなかったのかもしれません。
今回のケースでは、事故現場の近くに拠点を構えていたSDI TDIインストラクタートレーナーの大原氏に救助の依頼があり、ケイブダイビング装備を用いた捜索を行い、短時間で2名を引き上げました。しかし、それは高度な訓練と装備、そして冷静な判断があったからこそ可能だったものです。大原氏曰く「私でなくてもケイブダイビングの経験豊富なテクニカルインストラクターであれば、今回の捜索は決して難しいことではない」と話していました。しかし一般のダイバーが模倣できる救助レベルではありません。

事故の背景と危険性

今回 事故が起こったダイブサイトは、実際にはケイブ領域に分類される特殊環境といえます。
・水中は暗く、泥砂が舞えば視界は一気にゼロに近づく
・出口は一方向に限られ、エア切れやライト故障は致命的な結果につながる
このような環境は、「スポーツダイビング(レジャーダイビング)の延長」ではなく「専門的なケイブ環境」です。不用意な進入は極めて危険であり、今回の事故も「本来のルールを守らなかった」ことが背景にあると考えられます。

バディシステムとトレーニング

ダイビングはバディシステムを基本としていますが、資格や装備を持たない者同士で危険な環境に進入することは、むしろ二次災害のリスクを高めます。
ケイブ領域に進入するには、以下が必須条件です。
•    ライン(ガイドロープ)の設置
•    複数のライトとバックアップシステム
•    予備ガスの携行
•    専門的なトレーニング(カバーン/ケイブ認定)
これらを満たして初めて、洞窟内の安全な活動が可能になります。

今後に向けて


ベントスダイバーズ前のビーチでテクニカルダイビングのトレーニングに励むSDI TDIトレーナー大原拓氏

今回、捜索を行ったSDI TDIインストラクタートレーナーで、ケイブダイビング探検の経験豊富な大原拓さんにインタビューいたしました。

●大原さん、今回の捜索、本当にお疲れさまでした。
沖縄で長年ダイビングショップを運営されている立場から、地域のダイビング事情をずっと見てこられたと思います。安易な考えでリスクを冒すダイバーが後を絶たない現状について、どのように感じていらっしゃいますか?

ダイビングガイドは、お客様の命を預かる責任ある仕事です。近年はSNSなどの影響もあり、ガイドが「より珍しいものや迫⼒ある景⾊を⾒せたい」という傾向は強まっていると感じます。ケーブやレック(沈船)への侵⼊、深場での希少⽣物の観察などは確かに魅⼒的で、お客様の期待も⾼まります。しかし、スポーツダイビングの範囲には本来明確な限界があり、それを超えるとリスクが格段に⾼くなることは、我々ガイドが常に意識すべき点です。時には、写真や映像を優先するあまり、安全管理が後回しになる場⾯も⾒受けられます。こうした⾵潮は、結果としてショップ間の「無理をした⽅が⽬⽴つ」という競争につながりかねません。
だからこそ今こそ、「お客様に最も伝えるべきは美しい映像や派⼿な景⾊ではなく、安全と安⼼を守る姿勢である」という点を、業界全体で共有する必要があると思います。

●今回の水深30mでの洞窟事故では、救助に入れる方が限られる中で、大原さんのような経験豊富なケイブダイバーが地域にいらしたことで、迅速な捜索ができたと伺っています。発見場所は視界も悪く、とても狭い環境だったと聞きました。もし、ケイブダイビングのトレーニングを受けていないダイバーが熱意だけで捜索に入っていたとしたら、どうなったでしょうか?
救助において最も⼤切なのは、⾃分⾃⾝の安全を確保することです。今回の現場で、状況が悪化したケーブに無理に⾶び込むことを誰も選ばなかったのは、むしろ適切な判断であったと考えます。濁ったケーブの中では、強⼒なライトがあっても何も⾒えません。その中を⼿探りで進めば、すぐに⽅向感覚を失い、重⼤な⼆次災害を招いてしまうでしょう。
ケーブダイビングでは、複数のライトを携⾏することに加えて、最も重要なのがラインを⽤いたナビゲーションです。適切にラインを展張すれば、無視界でも安全に外へ戻ることができます。しかし、ラインの操作に不慣れな場合、逆に絡まりといった新たなリスクが⽣じます。ですから、ガイドだけでなく、実際に洞窟に⼊るすべてのダイバーに対して、装備とトレーニングの徹底が不可⽋だと強調したいです。

●日本のダイビング環境をより安全にしていくために、ダイバーやガイドはどのような教訓を持つことが大切だとお考えですか?
TDIの理念にもあるように、“⾃分の⼀番⼤切な⼈に教えるのと同じように”という姿勢で、安全と準備を徹底することが求められます。
世界中で起きているダイビング事故は、決して他⼈事ではありません。過去の事故から学び、教訓にしていくことこそが、次の事故を防ぐ唯⼀の⽅法です。
命を預かるガイドとして、“知らなかった”や“聞いていなかった”では済まされません。学び続けることが私たちの責任です。そして、安全でなければお客様の信頼も失われ、仕事を続けることもできません。
だからこそ、業界内でもお互いに声をかけ合い、安全意識を共有し、⾼め合うことが⼤切だと思います。

●今回の事故では、どのような状況と場所で事故ダイバーを発⾒されたのでしょうか。また、どのような理由で事故につながったのか、推測の範囲でお聞かせいただけますか?
私は事故当⽇、他ショップのガイドから救助依頼を受け、ケーブ装備を整えて現場に向かいました。現場には消防や海上保安庁も駆けつけていましたが、事故現場は⽔深30mの洞窟という特殊環境であり、対応には特別な装備と訓練が必要な状況でした。
事故現場」は⽔深約30mにある洞窟で、内部は狭く曲がりくねり、細かい泥砂が堆積しています。そのため、わずかな動きでも砂が舞い上がり、視界がゼロになる⾮常に厳しい環境です。
到着時も濁りが残っていましたので、ケーブ装備(サイドマウント、リール、メイン+予備ライト)を⽤い、安全管理を徹底して捜索を⾏いました。本来、ダイビングはバディシステムが基本ですが、この状況では資格や装備を持たない⽅と組むことは⼆次災害につながるリスクが⾼いと判断しました。そこで、ソロ資格を持つ私が単独で対応しました。捜索では、まず⼊⼝にラインを固定して進⼊。⼊⼝から約30m地点で2名を発⾒し、順に外へ搬出し、待機していたスタッフに引き渡しました。最後にラインを回収し、減圧に問題がないことを確認したうえで浮上しました。
事故原因について断定はできませんが、以下の要因が考えられます:
• シルトによる視界喪失で出⼝を⾒失った可能性
• 窒素酔いと視界不良が重なりパニックに⾄った可能性
• ガス管理不⾜で出⼝到達前に残量が枯渇した可能性
• 複数⼈での侵⼊により通路で動きが制限された可能性
このような環境は、スポーツダイビングの範囲を超えた「ケーブ領域」にあたります。今回の事例は、特別なトレーニングと装備の重要性を改めて⽰すものであり、今後の安全対策を考える上で⼤きな教訓になると考えます。

~大原さん、捜索、そして貴重なお話をありがとうございました。~

今回の事故を教訓とし、SDI TDIは次のような提言を行います。
•    危険な洞窟入り口には、日本語・英語で「進入制限の注意看板」を設置すること
•    ドリームホールなど他のリスクスポットも含め、業界全体で安全ルールを明文化し共有すること
•    観光目的で訪れる一般ダイバーに対しても、正しい情報と教育を届けること


九州の稲積水中鍾乳洞にある一般ダイバー立ち入り禁止の看板

SDITDIとしての姿勢

SDI TDIは「既存のルールを守らないことで事故が起きる」という事実を、今回改めて確認しました。安全は偶然に守られるものではなく、ルールと教育、そして一人ひとりの責任感によって守られるものです。
私たちは引き続き、ダイバーとインストラクターに対して正しい知識とトレーニングを提供し、日本のダイビングが安全で持続可能な活動となるよう尽力していきます。

最後になりますが、亡くなられた方のご冥福をお祈り申し上げます。


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