浸漬性肺水腫(Immersion Pulmonary Edema, IPE) ダイバーが気を付けるポイント

投稿者:加藤 大典

ダイビングは、私たちに自然との一体感や、日常では味わえない感動を与えてくれる素晴らしいアクティビティです。しかし、水中という環境には、陸上とは異なる身体への負荷があり、そのひとつが「浸漬性肺水腫(IPE)」です。
これは、体内の水分が肺に滲み出すことで呼吸が苦しくなる症状で、経験豊富なダイバーでも条件がそろえば起こりうるものです。発症は突然で、自分では気づきにくいこともあり、理解していないと重症化してしまう可能性があります。

大切なのは、「正しく知る」こと。原因、症状、予防方法、そしてもし起きたときにどう行動するかを知っておくことで、安全に楽しく潜り続けることができます。


1. 浸漬性肺水腫とは
浸漬性肺水腫(IPE)は、ダイビング中に肺に余分な水分がたまり、呼吸が苦しくなる症状です。
原因は「肺に流れ込む血液の量が増え、肺胞に水がしみ出すこと」。これは溺れて水を吸い込んだわけではなく、自分の体内から水が肺に漏れ出してしまう状態です。

突然起こり、重症化すれば命に関わることもあります。決して特殊な病気ではなく、健康なダイバーでも条件がそろえば発症します。

2. 発症しやすい条件

□ 高血圧や心臓の病気がある

□ 直前に水を大量に飲んでいる

□ 冷たい水に入っている

□ 激しく泳いでいる(強いフィンキックなど)

□ スーツやBCDで胸が圧迫されている

3. 主な症状

□ ダイビング中や直後に以下の症状が出たら要注意です:

□ 息苦しい、呼吸困難

□ 泡の混じった咳や痰

□ 胸が重い、圧迫感がある

□ 強い疲労感や「もう潜れない」と感じる

こうした症状を感じたら、すぐ浮上して休憩し、酸素を吸い、医療機関を受診 してください。

4. ダイバーのためのセルフチェックリスト
潜水前


□ 健康状態は安定しているか(高血圧・心疾患がある場合は医師の許可を得ているか)

□ 直前に水をがぶ飲みしていないか(のどが渇いたら少しずつ)

□ スーツやBCDは胸を締め付けすぎていないか

□ 水温や流れなど環境に見合った計画になっているか

潜水中

□ 無理なフィンキックをしていないか

□ 息が上がっていないか、呼吸が速すぎないか

□ 体調に違和感はないか

潜水後

□ 息苦しさや咳が出ていないか

□ 疲れが異常に強くないか

5. 発症したらどうするか?

□すぐに潜水を中止して浮上(安全を確保しながら)

□浮上中は低酸素に注意する

□陸上に上がったら酸素を吸う

□そのまま安静にし、医療機関を受診する

□その日の再潜水は絶対に避ける

6. 浸漬性肺水腫と低酸素
浸漬性肺水腫(Immersion Pulmonary Edema, IPE)が起こると、肺の機能が低下し、酸素を取り込む力が弱くなります。その結果、低酸素(ハイポキシア)の状態になり、重症化すると意識を失う危険性があります。

予防としては、ナイトロックス(酸素濃度の高いガス)を使用することで酸素不足のリスクを減らすことができます。ただし、ナイトロックスを使っていても発症をした場合の低酸素を完全に防ぐことはできないため、症状が出た場合の対応を理解しておくことが重要です。

症状が出たときにすべきこと
もしIPEの症状(呼吸困難、咳、胸の圧迫感など)が出たら、次の点を守りましょう。
■インストラクターやバディに付き添ってもらうこと
意識が低下する可能性があるため、一人で行動するのは危険です。
「異常あり」のハンドシグナルを出し「付き添ってほしい」と明確に伝えましょう。
■サポートダイバーがいない場合の対応
バディやインストラクターが近くにいない状況で、意識を失いそうな不安を感じたら、いつでもBCDやドライスーツで浮力を確保し、水面に出られるように準備しておきましょう。
そのまま水中で意識を失うよりも、水面にて意識を失うほうが、事故者の発見が早くなり生存できる可能性は高くなります。しかし、急浮上には、減圧障害のリスクもありますので、最悪の事態の際の自己責任で行ってください。
まずは、このような最悪な想定をする前に、もう一度、どのような環境や条件でダイビングを行うことが大切かこの記事を読み返してください。


5. まとめ
浸漬性肺水腫は、予防できるリスク です。
「健康管理・水分管理・無理のないダイビング」が最も大切。
ナイトロックスを使用したダイビングは浸漬性肺水腫の症状が出た場合にも低酸素症などのリスクを下げることができます。
もし症状が出たら、ためらわずサポートダイバーと浮上して助けを求めること が命を守る行動です。
チームやバディでお互いの安全確認を行い、もしもの場合に対応できるようにしておきましょう。


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